戦後は街の看板やマッチラベルなど、各種広告に重宝されたミッキーマウス。事実上フリー素材だった時代は確かにあった。しかしその大半は下手糞な模写、時に少々のオリジナル要素が加わり、一線を越えた相似性を持つものは意外と数が少ない。
ところがスワ牛乳のミッキーはどう見ても…原典イラストを忠実にトレスしたような、潔いデッドコピーの極み。版下の作成時、ディズニーの絵本か何かを直に引き写していたのだろうか。製瓶会社もよくぞ受注した、あぶない一本である。
スワ牛乳は長野県諏訪市にあった地場乳業さん。昭和31年に北海道バター(雪印乳業)系列の八ヶ岳酪農協同と業務提携し独自銘柄は消滅、「クロバー牛乳」の受託生産に転向。間もなく拠点は八酪の茅野工場へ移転、諏訪牛乳店主さんは移転先で製造責任者を勤めることとなった。 |
◆人気爆発!ミッキー続々出演
どでかい牛乳瓶を抱えてニッコリ笑う渡辺牛乳のミッキー。スワ牛乳に比べ鼻のところを白抜きしたりと“自家製造”の匂いも感じる。全体的には初期のミッキーマウスに近い絵面。これならオッケー、のはずもなく、禁断のアウトローびん認定は免れない。
ディズニー草創期を彷彿とさせる東城牛乳(東城酪農牛乳)のミッキー。昭和30年代中期の瓶だが、終戦のどさくさ・インチキテイストを継ぐ貴重な一本。思い出しながら描いたような中途半端さに、ウォルトディズニーも思わず訴訟を断念か。
東城牛乳の偽ミッキーを横目に模写した風貌で果敢に攻めるサカモト牛乳。いや、こっちが若干上手いかも?とか、今となってはそういう問題ではなく明らかに全部ダメです…。
◆デザインの提案は資材代理店?
それにしても似通った構図が多い。特に東城牛乳(広島)とサカモト牛乳(岡山)は地理的に隣接しており、往時の乳業資材代理店が各メーカーに「巷で人気のオススメデザイン♪」てな調子で営業展開した可能性もありそうだ。楽しい時代である。
変り種は木村牧場の蝶ネクタイ男。アメリカの長寿漫画「ブロンディ」に登場する憎めない怠け者キャラクター、ダグウッドの借用と見られる一本だ。
現在はあまり馴染みのないタイトルだが、日本では昭和20〜30年代に朝日新聞・週刊朝日が翻訳連載、国内で単行本も出ていた。往時の英語版はネット上でいくつか読める。“木村牧場版”は帽子のへこみの描き方、跳ね上がった前髪、蝶ネクタイにスーツ、動作表現など相似性が高い。 |
何しろ木村牧場さんは昭和30年代の景品コップに、ポパイの絵をそのまんま使った例も確認している。この木村ブロンディーと、上掲の渡辺ミッキー(いずれも宮城県)が持つ巨大ビン。大胆な陰影の付け方がそっくりで、同一人物のデザインかも知れない。