◆掲載ビン8本について
掲載はハト人気に乗じた亜流?も含む8本。愛媛県下今治・新居浜市内のボトラーが大半を占める。上段が東洋発酵乳のブランド・マークをそのまま使った正規品。下段を海賊版と言うべきか…同一原液を利用しつつ、差別化のため敢えてデザインを変えたものなのか、良く分からない。
ハトのマークは知名度抜群、そのイメージにあやかりたい業者さんは居ただろう。東海醗酵乳さんの「コバトヨーグルト」など、特に怪しい雰囲気だ(※)。とにかく作れば売れる人気商品、多数のプレイヤーが入り乱れた往時の活気を証する光景と思う。※同社製の純正ハトヨーグルトも存在する。後先は不詳。
◆ヤクトール・福岡応用菌学研究所
九州地方、特に沖縄の乳酸菌飲料市場に先鞭をつけたのは、「ヤクトール」ブランドを展開していた(株)福岡応用菌学研究所・アミノ酸ヤクトール(福岡県三猪郡筑邦町荒木)というメーカーだった。
創業当初のゲンキ乳業ほか数社が、研究所の原液/完成品を仕入れて代理店営業に臨んだため、各瓶装に同系を示す呼称・マークが散見される。
画像右:福岡応用菌学研究所のヤクトールの小瓶(昭和30年代初期) | |
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・ゲンキ牛乳…「アミノ酸ヤクトール沖縄本舗」、「沖縄アミノ酸ヤクトール本舗」からの創業。
・マルサン牛乳…草創期は「マルサン商会」に加え「沖縄応用菌学研究所」を併記。
・ラッキーヨーグルト…「沖縄乳業合資会社」に加え「琉球応用菌学研究所」を併記。
・ゲンキ乳業 ヤクトール (沖縄発!にわかビンコレクター) / ヤクルト・ヤクトール (ビンの博物館)
間もなく製法全般を習得のうえ、自社工場で一貫生産が可能になると、各社は代理店を卒業。研究所のライセンスを得て、各々独自の製造販売に移行していった。
◆アミトール VS ヤクトール
東洋発酵乳のアミトール(ハトヨーグルト)と、福岡応用菌学研究所のヤクトール。名前・イラストロゴが酷似し、偶然とも思えない。何故そうなった?を窺い知れる同業者の争いが、[公正取引委員会年次報告 昭和35年度]の係争事例に紹介されていた。以下、その内容をまとめる。
久留米市のアミトール(株)は、アミノ酸を添加した乳酸菌飲料(アミトール)の製造販売会社。同社は、昭和30年12月、事業顧問の斉田義雄氏を解雇した。(氏は「斉田式速醸法」の考案者として、醤油醸造の資料にも散見)
解雇された斉田氏は(株)福岡応用菌学研究所を設立。昭和31年2月、アミノ酸入り乳酸菌飲料(ヤクトール)の製造販売を開始。アミトール(株)は対抗措置として、傘下販売店にアミトール類似品の取り扱い禁止を通知する。
違反した場合、アミトール社への違約金支払い・以後の原液供給中止を定め、実際に福岡応用菌学研究所との取引を試みた販売店を絶縁。さらに契約に反した販売店の近くに、別の直売所を設けると言って脅した。 |
という次第で、アミトール(株)(福岡県久留米市築島町)による自由競争の妨害行為を、恐らく斉田氏が告発し、今に残る記録となっている。アミトールは昭和34年、一切の違反行為を排除、契約を改めた。その後は同種の乳酸菌飲料が市場に百出、全体に自然な競争状態が生まれてくる。
公正取引委員会は、アミトール社が契約を改めたことに加え、市場競争激化で販売店の拘束はもはや不可能、本件違反行為は消滅した…と見做し、罰則適用を見送り・不問に付す。
◆ハトのマークの元祖はヤクトール?
全ての始まりは昭和21年、坂井末松氏が福岡に興した「久留米化学研究所」。この乳酸菌飲料メーカーが発展する形で同29年「アミノ酸ヤクトール」の創立に至り、翌年には法人化(株式会社)。すでにハトのマークも策定されていただろう。つまり、元祖はヤクトールのはずだ。
ところが商売が伸びるにつれ、社内に主導権争いを生じたらしい。上記係争の報告通り、昭和30年に「アミノ酸ヤクトール」(後のアミトール社)を放逐された斉田氏は、たぶん自身が権利を有する「ヤクトール」の名前を旗印に「福岡応用菌学研究所」を立ち上げ、古巣との勝負に挑む。
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「アミノ酸ヤクトール」社(坂井氏)は同33年、「ヤクトール」呼称の継続利用を断念し?新商標「アミトール」を策定。社名もアミトール(株)と変更。いっぽう事業拡大を狙って名古屋に東洋醗酵乳(株)を新設。40年代中期に福岡の創業拠点を閉鎖。旧社の全業務を東洋側に併合と見られる。
画像左:東洋醗酵乳の会社広告(昭和48年)…壜詰めからプラスチック容器(65ml)に転換。自社ブランド直売の最終世代に近い。 |
◆ハトのマークは平和の象徴
関係各社の動きを要約すると、まず初めにヤクトールありき、内部分裂のひと悶着を経て福岡応用菌学とアミトールが生まれ、続けて後身かつ唯一の現役メーカー、東洋発酵乳さんが誕生、という流れだ。アミトール(株)の解散/廃業と同時期に、(株)福岡応用菌学研究所も無くなっている。
「ハトヨーグルト」の銘はアミトール(株)時代の新顔か。乳酸菌飲料はもちろん、生ジュースのラインナップもあった。イラストは足の爪・頭部のシルエットから推せば、鷲のように見える。しかしこれは「平和の象徴ハトの絵」だと、ヤクトールの関係者さんがメディアのインタビューに答えたことがあるそうだ。
― 謝辞 ―
福岡応用菌学研究所・沖縄の乳業の商品展開など、向名館(こうめいかん)・名護様よりご教授頂きました。
― 関連情報 ―
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