昭和9年、地元の牛乳屋さん14軒の合資により設立。福岡県大牟田市から熊本県荒尾市一帯に広がる炭鉱町に、搾乳・処理・販売を行ってきた個人業者さんらの協業・大合併で、以来市域を中心にシェアを伸ばした老舗メーカーである。
現在、経営主体は大阪の不二製油さん。買収・事業整理に際し旧来の市乳部門は縮小。地域に親しまれた乳飲料「オームリンゴ」、いわゆるりんご牛乳が、栃木のレモン牛乳のようなご当地ドリンク的ポジションにあって、平成24年の終売時は特に大きな話題となった。
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画像上:オーム乳業の製品集合写真(昭和40年代)…大瓶2種、高脂肪牛乳ネオーム、オーム牛乳、りんご牛乳、コーヒー牛乳、ヨーグルト(乳酸菌飲料)、オームオレンジC、テトラパック。販促用の下敷きより。 |
◆掲載瓶・大牟田からオームへの遷移
昭和40年に商号変更、「大牟田」改め「オーム」銘へ。掲載(1)番瓶は改称目前、(2)番は変わった直後、(3)番がその後継…くらいの時代感だ。同59年には新シンボル [Omu brand] を策定、オウムの絵は姿を消す。(⇒会社案内・沿革/公式サイト)
商品案内には未掲載ながら、県下永利牛乳さん委託でオリジナル瓶製品(宅配専用)が健在。しかし従前より業務用生クリームを主力事業とし、近年に至って資本関係・経営方針も変動したため、普通の牛乳類は削減の一途を辿っている。
◆大牟田牛乳の設立前夜
県下は明治期からの畜産奨励が実を結び、全国的にも乳牛飼養の盛んなエリア。特に大牟田・荒尾は三井三池炭鉱で栄えた国内有数の炭鉱地帯であり、消費人口の増加を背景に牛乳屋さんも繁盛、小規模な処理場がいくつも現れ競争状態にあったという。
大牟田牛乳(株)に鋭意参画、中核を担った永利嘉作氏(※)も、既に昭和初年から大牟田市内で処理販売を行っていた。※北海道・千葉産の乳牛250頭を移入し、農家に貸付・搾乳委託の体制を築くと、昭和17年には筑紫郡に永利牧場(永利牛乳)を別途開設している。
しかし昭和8年の牛乳営業取締規則改正は家内工業的な製造を禁じ、新規ミルクプラントの建造が必須となる。その設備投資コストは莫大、個人の商売で賄い切れるレベルではなく、各業者存続を賭し大牟田牛乳(株)へ企業合同に至ったのだった。
◆業容の拡大・地場メーカーの併合
昭和20年、嘉作氏のご子息・昂二氏が社長に就任。戦後大手資本の進出に対抗すべく積極展開、近隣商圏の牛乳工場(販売権)買収・合併は8事業者に及ぶ。
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昭和26年…江上牛乳処理所 (熊本県玉名郡)
昭和35年…長須プラント、南関プラント (熊本県・正式名称および所在不詳)
昭和36年…三池酪農協 (大牟田市)、大牟田中央酪農協 (大牟田市上官町)
昭和37年…荒尾牛乳処理場 (蔵本大文氏・熊本県荒尾市朝日区)
昭和38年…大正牛乳(有) (樺島政儀氏・大牟田市大正町)
昭和41年…大和酪農組合 (橋田若松氏・福岡県山門郡大和町)
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このころ地域内シェアは約9割に達し、大牟田牛乳はローカル盤石の地位を固めた。地元資本の九州乳業(みどり牛乳)や全酪新生乳業(株)へも出資参画したようだ。
◆炭鉱の衰え・オーム乳業への改称
昭和30年代中期には経済基盤の石炭産業が失速、鉱山衰退は街の商売に暗い影を落とす。さらに交通網の整備・冷蔵輸送の進展で生鮮食品全般の市場境界が拡がり、大手乳業の販路拡張は脅威の度をますます高めていた。
大牟田・荒尾の根城には先がない、大牟田牛乳は変革を迫られる。昭和40年、市域に留まらず、会社を大きく羽ばたかせたい…との願いを込め、長寿で知られる鸚鵡を大牟田に掛けた新しい名前、オーム乳業(株)に改称するとともに、福岡市への進出を決した。
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画像上:オーム乳業の工場外観(昭和40年代)…工場の看板やトラックのペイントには、赤・青・緑などに塗り分けられた、極彩色バージョンのオウムのロゴマークが見える。販促用の下敷きより。 |
◆主力を業務用生クリームに転換
九州市場の要・福岡市の攻略は至難の業だった。飲用牛乳は大手中小の様々な商品が入り乱れ、既に過当競争の域にあり、後から来た者が成功する可能性はゼロに近い。そこでオーム乳業は、生き残りの道を生クリームに見出した。
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| 当時は大手乳業が生クリームを積極的に取り扱っていなかった
従って大都市周辺のローカルメーカーによる供給割合が高い
それでも輸送時の温度変化や振動で変質しやすく、本腰を入れる会社は稀
和菓子からの嗜好転換期にあり、高級洋菓子店の新規開業が多かった
市乳消費が落ち込む冬季にも、ケーキ原料なら需要を見込める
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技術面の課題を克服すれば、天下取りまで見える。オーム乳業は製品開発と諸問題の解決に注力し、昭和46年から生クリームを主力商品に据え、見事軌道に乗せた。
平成10年の新工場落成を契機にその方針はより深化。スーパーほか量販店向けの牛乳は価格面で大手に対抗しえず、大幅に出荷抑制。あくまで利益率の向上を目指していく。
◆製油会社の買収で経営交代
平成24年3月、大阪に本社を置く油脂・加工食品メーカーの不二製油(株)が、オーム乳業を買収して完全子会社とした。洋菓子に強いオームと、製菓・製パン分野に太いパイプを持つ不二精油の相乗効果で、次代の飛躍を狙う戦略的合併という。
生クリームで活路を拓くも国内市況は軟調、海外進出を視野に入れた時、オーム乳業さん単独では難しい。不二精油さんは海外拠点を幅広く展開しており、オーム既存販路の獲得や新製品の共同開発に加え、国際市場での拡売を見込んでいる。
オーム乳業は、洋菓子店向け業務用生クリームを主力製品とした乳製品の研究開発型メーカーであり、その高品質な製品から特に高級洋菓子店において根強いリピーターを多く抱え、強いブランド力を保有しております。近年では、その高い品質が認められ海外からも取引を求められるケースが増えつつあります。(⇒オーム乳業の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ/不二製油NR) |
◆りんご牛乳の消滅・オーム銘の去就
「オーム」ブランドに変更はなく、そのまま引き継がれているが、各種事業の見直しは不可避だ。もとより二軍落ちの市乳ラインは改廃待ったなしのところ…。
・オーム乳業「リンゴ牛乳」生産中止へ (qBiz 西日本新聞経済電子版)
・オーム乳業のオームリンゴ (草木饅頭屋さんの店長日記)
・さようなら「りんご牛乳」 (みすみたてあきのブログ)
・オーム リンゴ牛乳生産中止 (九州あれこれ)
名物りんご牛乳は販売量の減少で採算が悪化、他社の継承も見送られ、平成24年末に生産中止が決定。その他牛乳類も一層の縮小生産へ移行する。
存廃の状況は、さようなら「リンゴ牛乳」(愛しの牛乳パック)に詳しい。問い合わせの結果によると、一般小売店(スーパー)向け商材は原則撤廃、いっぽう地域貢献色の強い宅配・給食用アイテム、業務仕様の一部牛乳は存続、とのことだ。
― 参考情報 ―
FFG調査月報・トップに聞く・オーム乳業・永利嘉浩氏 (ふくおかFG)
広報誌「HQ」・地球の風 地域の風・オーム乳業前会長・永利新一氏 (一橋大学) ※PDF
オーム乳業の紙栓 (牛乳キャップ収集家の活動ブログ)
同・紙栓 (牛乳キャップとは) / 同・紙パック製品 (愛しの牛乳パック)
これが噂の『オーム牛乳』だぁ (infix長友仍世&佐藤晃のサンキューオーディー)