植村牛乳植村牛乳

(記事下段)

植村牛乳

植村牧場(株)
奈良県奈良市般若寺町168
東洋ガラス製・正200cc側面陽刻
200cc移行後〜昭和60年代

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古刹・般若寺(コスモス寺)の門前に、創業130年の老舗。奈良に現存する最古の牧場で、今や県下唯一の瓶装乳を商うミルクプラントだ。

販路は家庭宅配、ホテル・飲食店への卸しを中心に約1,000軒。明治時代から代々続く得意先も残るという。ご当地にはレストラン・売店を併設、小規模な観光牧場になっており、Web上にその訪問を愉しんだ旅記も多く見られる。

◆奈良県の牛乳黎明期

県下の牛乳史は明治5年、東京の牧舎で諸事を学んだ篤志2名が、十津川村の文武館(現・県立十津川高校)で乳牛飼育・搾乳販売を行ったことに始まる。同じ頃、県営の奈良牧牛場が若草山に拓かれ、ここでは練乳・牛蘇(チーズ)の加工まで手掛けた。

奈良県の牛乳の歴史 (奈良県牛乳商業組合)
特集 奈良県誕生物語・第2章 文明開化のあしおと (kamarin)

需要喚起を促す奈良牧牛場の古い記聞広告は、「牛乳は人身に神益あり、小児脾胃の虚弱を補い、母乳の代用を果たし、肌を潤し血液を増し、肺結核や肩凝り・冷え性など諸病を治す天然の良剤」と、万能薬のような宣伝文句を並べる。

こうした初期の試みは、牛乳・乳製品の効用を広く知らしめる成果を挙げたものの、いずれも販売不振や家畜伝染病の蔓延で行き詰まり、数年の内に廃業・閉鎖に至った。

◆植村牧場の発祥と発展

先人の試行錯誤から間もない明治16年。病弱だった植村武次郎氏は、体質改善のため医師より牛乳飲用を勧められる。ところが恐らく、近所に商う者がいなかった。仕方なく?自ら乳牛一頭を飼い始め、これが今に続く植村牧場の原点となる。

自家消費の余剰を分売する営みが、徐々に家業へ発展。二代目・植村武一氏は、市乳需要が上向く昭和に入って乳牛を逐次増頭、本格的な牧場・乳業経営に乗り出す。

武一氏は政治家としてもご活躍。市会議員を振り出しに戦後は衆議院議員を務め、自民党県連顧問や県乳業協会会長の要職にあり、農業・酪農振興に尽くした。

◆黒瀬礼子氏による継承

三代目・健次郎氏の跡を継いだ長女の黒瀬礼子氏が、四代目の現牧場主・社長さん。昔ながらの木造牛舎、低温殺菌のスタイルは近年再注目を浴び、観光スポットに定着。また知的障害者の積極雇用が、多数のメディアに報じられる。

とはいえ、若き日は「いずれ継がなければと考えていたが、大変さを知っていたから嫌でたまらなかった」。しかし父の病を契機に建設会社勤めを辞し、北海道・町村農場で3ヶ月の実習後、奈良に帰って伝統の家業に臨んだという。

植村牧場における知的障害者雇用の取り組み (名古屋学院大学総研)
黒瀬礼子さん 植村牧場(株)代表取締役 (同志社女子大学通信Vine)
人こそ、私の財産-黒瀬礼子さん (デジ奈良)
植村牧場株式会社 (じもナビ-地元企業情報)

奈良県は中小メーカーの淘汰激しく、平成まで存続は僅か5軒。平成3年に中野牧場(南京終町)と五條牛乳(五條市)さんが廃業。平成12年には新庄牛乳(北葛城郡)とヨネダ牛乳(御所市)さんが撤退。植村さんが最後の老舗である。

◆ビン製品・掲載瓶について

「ほんのり温めて殺菌したものを、ビンで飲むのが牛乳や!」二代目のこだわりは今なお受け継がれ、市乳はすべからく瓶詰め。本項掲載は「要冷蔵」標示のみなので、昭和45年頃の200cc移行期〜同60年代くらいの流通だろうか。

現行品もデザインはほぼ同じ。実際に植村牛乳を宅配で取っていた紙栓収集家のkazagasira氏によれば、要冷蔵に「10℃以下」を併記した「まる正200cc」打刻瓶が長く使われ、平成14〜15年頃「まる正200ml」印刷標示瓶に切り替わり始めた…とのこと。

また、昭和30年代出来と思しき六角瓶が、牧場現地の「ミニ博物館」に展示されているらしい。加えて明治末〜大正期の機械栓仕様の古壜が、旧寺院跡の発掘調査報告に載っている(⇒近代奈良の牛乳壜/奈良文化財研究所紀要2002)。

― 参考情報 ―
植村牧場の紙栓(1) / 同・(2) (牛乳キャップ収集家の活動ブログ)
植村牧場〜奈良県奈良市 (なおのブログ) / 植村牧場 (乳業探訪記)
植村牧場の牛乳箱 (牛乳キャップ収集と販売情報-主に関西)
奈良・お店拝見・植村牧場 (荒川MC流通総合サイト)
宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」植村牧場 (介護・福祉のけあサポ)


創業> 明治16年、植村牧畜場として
昭09> 植村武一/奈良県奈良市般若寺町
昭31> 植村牧場・植村武一/奈良県奈良市般若寺町168
昭34〜平13> 植村牧場(株)/同上
電話帳掲載> 同上
公式サイト> http://www.uemura-bokujyo.co.jp/

処理業者名と所在地は、牛乳新聞社「大日本牛乳史」・全国飲用牛乳協会 [牛乳年鑑1957年版]・食糧タイムス社 [全国乳業年鑑] 各年度版による。電話帳の確認は平成19年時点。掲載情報には各種Webサイトや書籍資料(参考文献一覧)の参照/引用、その他伝聞/推測などが含まれます(利用上のご注意)。



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