創業明治30年、かつては地元に良く知られた老舗。岡崎家は出身地・岡山の酪農と、阪神エリアでの起業を盛り上げた先駆・貢献者。「ゼルシー牛乳(※)」の景品コップや、街角に残る宅配木箱は、好事家にもお馴染みだ。(※)ジャージー種の古い読み。ジェルシー牛乳(埼玉)という例も。
掲載の角びん2世代は、恐らくそのゼルシー牛乳を含む、加工乳専用瓶。平成15年、近在の春日牧場と業務統合、新会社が発足。「岡崎」銘は消滅した。
◆郷里岡山を乳用牛の大産地へ導く
創業者の岡崎佐次郎氏は岡山県邑久郡の生まれ。もとは和牛育成を手掛けていたが、出荷先の阪神地方で牛乳需要が高じ、搾乳業者の勃興相次ぐ様子を見て乳牛に開眼。明治12〜13年頃から乳用種を入れ、改良に取り組み始める。
成牛に育て、種付けし、分娩間際に都市部へ輸送。搾乳業者は泌乳期の牛を定期的に確保でき、面倒な繁殖管理の手間も減るので大変な好評を得た。
乳牛供給の仕事は数年で軌道に乗り、将来有望な事業として周辺農家にも飼養を奨める。氏は数十頭の洋種牛を追加購入し、一帯の有志に貸与・指導を行い、実益を知らしめ、邑久郡域の酪農普及に多大な貢献を果たした。
・岡山県畜産史
第2編 1章1節 酪農の展開 (おかやま畜産ひろば)
・岡山県畜産史
第2編 2章2節 和牛の改良と登録 (同上)
◆都市部へ進出し搾乳業を手掛ける
明治18年、商機を感じた佐次郎氏は神戸市に自営牧場と牛乳販売店を開設。同25年、拠点を大阪市に移し経営の拡充に務め、逐次成功を収める。これに刺戟された郷里岡山の牛飼いが続々と阪神地方に集い、搾乳業で立身を志した。
氏は夢を抱いて来神・来阪する同郷の若者を迎え入れ、岡崎牧場の現場に雇い、技術習得後、独立に漕ぎ着けた者を多数輩出した。
明治〜大正期、岡崎牧場に学んだ太田久七・武太氏、奥山善六氏、光本政二・治郎氏らは、それぞれ自前の牧場や販売店を構えるに至り、戦後も太田牧場(東淀川区)、特別旭乳業(城東区)、光本牧場(西成区)として存続している。
◆阪神市乳業揺籃の地として
大阪神戸に商売を確立した岡山県人さんらは、郷里から乳牛を取り寄せ、生まれた仔牛は送り返し育成を任せる。結果、牛飼い・家畜斡旋業が一層盛んになった。
佐次郎氏は明治40年、旭東酪農業協同組合の前々身となる邑久郡畜産組合を結成。跡継ぎの趙七氏は岡山市内で牛乳屋を営む傍ら、渡米・輸入したホルスタインやジャージー種を畜産組合へ預託。この頃すでに農村の乳牛は1,000頭に達した。
戦前、京阪神の需要を支える乳牛の7割は岡山産(特に旧邑久郡)であり、また昭和30年代の大阪市内に営業した乳製品メーカーの2割は、太伯(現・岡山市)や長浜(現・牛窓町)出身者の起業で、一帯は「阪神市乳業揺籃の地」と評される。
◆戦前・戦後の概況と摂津市への移転
佐次郎氏は大正2年に隠退、趙七氏に代替わり。昭和8年、会社法人を設立、長男・和人氏が経営を継ぐ。戦時は飼料・人手不足、企業統制で実質休業か。復興は昭和26年、(株)岡崎牧場の再設立で、31年時点の社長は吉田留雄氏だった。
拠点・業態も徐々に変化。昭和40年、大阪市内では維持が難しく、兵庫県三田市に牧場を作り直すが、ここも宅地化が進んでしまい、51年に乳牛飼養を中止。
昭和59年には淀川区を離れ、摂津市へ本社・工場を全移転し、岡崎乳業(株)と改称。吉田氏は少なくとも、昭和の終わり頃まで代表を務めている。いっぽう創始の岡崎家も平成初年に至るまで、専務・役員の立場で参画したようだ。
◆春日牧場と業務統合・岡崎ブランド消滅
摂津時代は需要減退・生産コスト増など市況悪化に直面。冒頭の通り、平成15年に(株)春日牧場との業務統合を決し(株)春日乳業に衣替え、商標商号は春日ブランドへ集約。これには雪印乳業の食中毒事件が少なからず影響した。
岡崎乳業さんは事件発生の翌年、消費者のネガティブイメージで販売不振に陥り、事業停止をアナウンス。すぐに方針変更・撤回宣言したものの、朝令暮改のすえ、出荷量は半分に落ちたという。(⇒岡崎乳業のプラ製牛乳箱/むにゅ’s
のぉと)
挽回を期す春日乳業も経営は苦しく、大原町農協(岡山県)や、人的交流のあった?(株)佐世保ミルクプラント(長崎県)の財政支援を受けていた。
◆相次ぐトラブルとその後の流転
しかし大原町農協では組合長の横領事件が発覚、平成15年に解散。佐世保ミルクプラントでも役員の手形詐取が露見、対抗上決済せず不渡りを出し、平成16年に倒産(諸事業は関連会社のミラクル乳業が吸収)。想定外の難局を迎える。
前者の事件は、農協組合長と旧春日牧場代表(父子の間柄)の共謀だ。「春日牧場を買収、物流拠点を確保する」名目で、理事会の承認を得ないまま15億円を使い(平成13〜14年)、業務上横領容疑で逮捕(平成16年)されている。
・岡山県、農協に管理命令
ペイオフ解禁後初の破たん (四国新聞社)
・岡山県が大原町農協に管理命令
払い戻し不能の恐れ (毎日新聞)
・企業信用情報-日本グランドミルク
(日経ベンチャーonline)
春日乳業は日本グランドミルク(株)へ改称。経営陣交代・営業部門の分社化で、立て直しを図る。ところが平成19年、清算中の大原町農協が損金回収のため日本グランドミルクへ破産手続を申し入れ、万事休す。完全消滅となった。
◆在庫キャップ送付サービスと現況
日本グランドミルクは最晩年、ビン詰め・小容量紙パックの製造ラインを廃止。「新旧の牛乳キャップ在庫を希望者へ郵送」する旨、粋な告知をWebサイトに載せていた。(⇒ゼルシー牛乳のふた!日本グランドミルクさんから/大阪
アホげな小発見。とか)
破産後は、前もって分割の営業部門・(株)グランドミルク販売(摂津市新在家)が送付サービスを継続も、程なく取り止め。平成23年前後には販社も閉業に至る。
唯一健在は、旧・春日牧場の関連会社だった(有)マキバさん。平成17年の日本グランドミルク発足時に提携を解消、今も春日牧場グループの情報発信を続ける。
― 関連情報 ―
岡崎牧場の紙栓(1)
/ 同・(2)
(牛乳キャップ収集家の活動ブログ)
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(牛乳キャップとは) / 大阪府の牛乳キャップ01
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岡崎乳業の牛乳箱
(牛乳キャップ収集と販売情報-主に関西)
岡崎牧場
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