ケンコウ牛乳ケンコウ牛乳

戦後、日本原開拓団の入植に端を発し、武山巌氏による光農場の発起と乳牛導入、さらに諸組合の酪農推進で生まれたローカル銘柄。

草創期から乳業(製酪組合)を率いた武山氏は、右翼民族派の熱心な支持者・運動家。「ケンコウ」は健康報国の趣旨だろうか。

およそ40年間に渡る商いも、平成9年に廃業され、ブランドは消滅している。

ケンコウ牛乳

(有)ケンコウ乳業
岡山県勝田郡奈義町上町川1807
東洋ガラス製・正200cc側面陽刻
昭和50〜60年代

◆陸軍補導会・怒涛の入植

那岐山麓の日本原は、鳥取と県境を接する岡山の北端、開墾途上の原野だった。明治後期、一帯を当局が買収。以来、陸軍の演習場(日本原演習場)を運用した。

終戦の日を迎え、駐留部隊は解散。しかし一部の軍人さんらは、土地・建物を譲り受けたと主張、続々と日本原に集結、廠舎を占拠。近在の士官学校幹部(陸軍補導会)も合流し、演習場を農地開拓すべく、半ば強引に入植を進めた。

◆GHQの横槍・日本原開拓団の成立

このとき武山氏も日本原入り、颯爽と鍬を振り上げたのも束の間。昭和21年、GHQは日本原を旧陸軍の資産と断じ、用地を強制接収。入植者は即時立ち退きを迫られる。

既に多数が現地に生活を営んでおり、拠点喪失は死活問題だ。武山氏を含む数名の代表者が、県に対して陳情・交渉を行った結果、一部の使用許可が下りる。再入植88戸の選抜を経て、日本原開拓団は正式に認められた。

◆武山巌氏の光農場

武山氏は“勤皇村”の建設を期し、再び日本原へ。思想の相通ずる有志5家族とともに移住、「光農場」を興す。氏は戦前来の右翼運動家で、カント哲学者・松永材氏の基本理念(家の体制)に従い共同体を形成、協働営農に臨んだ。

同じ民族派の大東塾(不二歌道会)と交流があり、東京・栃木・福島に農場を作った同塾の「文武農一体」精神に共鳴した側面もうかがえる。開拓の傍ら岡山での政治活動にも注力、「直毘塾」総代や「日本同志会」会長を務めた。

◆開拓農協の設立・酪農の発展

昭和23年、光農場は津山より乳牛を調達、日本原の高原地帯における酪農に先鞭をつけた。農家全体に組織化の機運も高じ、同年末には日本原開拓農協が結成され、牛馬を入れた有畜農業を推進。組合も乳牛斡旋に取り組む。

以降、このエリアでは畜産が急速に普及。昭和30年、光農場は市乳直売に着手。まずは勝間田町のメーカーに生乳を出荷、殺菌・瓶詰めして貰い、完成品を自転車に積んで売り回る。将来の自家処理を念頭に、京阪神の先進工場も視察した。

◆日本原製酪工業協同組合・ケンコウ牛乳

牛乳屋さん計画は着々と進行。昭和31年、武山氏宅の一角を改造し、ささやかな市乳処理設備を据え付け、完全オリジナルの「ケンコウ牛乳」が生まれたようだ。

当初のミルクプラントは、日本原製酪工業協同組合の名乗り。組合長に武山氏が就く。この頃、美作集約酪農地域の指定を受け、日本原の酪農業は本格的な伸張期に突入。奈義町酪農組合連合会ほか、地元諸組合との連携もあったはずだ。

◆金太郎マーク・開拓地の現況

勝北・奈義に隣接する勝央町は、坂田金時ゆかりの地。ケンコウ牛乳の宅配受箱も、凛々しい表情の金太郎が目印。紙キャップにも小さく標示されていた。

昭和48年前後に工場は勝北町から奈義町へ移転、50年代初期に(有)ケンコウ乳業へ改組。平成9年に至り、乳業施設再編合理化に応じて廃業、銘柄は消滅。晩年は武山氏が代表を務めた日本原開拓農協も、活動停止して久しく、昭和59年に解散している。

日本原の開拓地それ自体も大きく変貌した。昭和23年に占領軍は撤収、日本に返還され自衛隊の演習場へ転換。同39年、演習場拡張のための用地買収で、入植エリアは激減。現在なお陸上自衛隊の日本原駐屯地が置かれる。

― 関連情報 ―
自然農法 / 右翼 (山田尚公の工房日誌)
武山氏とともに入植・共同営農に取り組んだ山田哲氏のお孫さんによるブログ。日本原における有畜農業や右翼運動について。哲氏は「昭雲叩き彫り」の創始者、現在も彫刻技法が継承される。
美作ぶらぶら〜最終回 (ひとはたびびと) / ゆかしき牛乳箱 (お散歩 Photo Album)
日本原開拓地に於ける農業経営の育成目標 (復刻版 岡山畜産便り)
松永氏の県別、地名と人名(24) (紀氏のルーツ)


設立> 昭和31年、日本原製酪工業協同組合(ケンコウ乳業)として
昭34〜44> 武山巌/岡山県勝田郡勝北町新野東1738
昭46〜47> ケンコウ牛乳/同上
昭48〜50> 武山巌/岡山県勝田郡奈義町上町川
昭51〜平04> (有)ケンコウ乳業/岡山県勝田郡奈義町上町川1807
平07> 同上/岡山県勝田郡奈義町上町川1776-7
平09> 乳業施設再編合理化により工場閉鎖
廃業> 平成9年
電話帳掲載・公式サイト> 未確認

処理業者名と所在地は、食糧タイムス社 [全国乳業年鑑] 各年度版による。電話帳の確認は平成19年時点。掲載情報には各種Webサイトや書籍資料(参考文献一覧)の参照/引用、その他伝聞/推測などが含まれます(利用上のご注意)。



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