文字通り、クラーク博士でお馴染みの北海道大学(農学部)が商っていた学内銘柄。正式な事業者名は
「北海道大学農学部附属農場畜産製造部」 ないしは
「附属農場乳製品工場」…ということなるだろうか。しかし、誰の目にも出自は明らかで何の疑問も差し挟む余地のなさそうなこの牛乳、細かいところでは不明瞭な点が非常に多いブランドだ。
まず、食糧タイムス社が毎年刊行している [全国乳業年鑑]
牛乳工場名簿には、北海道大学の名前が一切出てこない。市乳処理を行う場所として、ごく小規模な各地の農業高校すらリストアップされ、大学であれば国際基督教大学、東京農業大学などが掲載されているにも関わらず、北大はどうしても見当たらない。
次に、正式な銘柄も不詳である。キャップコレクター諸氏に広く出回っている販売曜日標示期の古いキャップには、生産者名として
「北大附属農場畜産製造部」
の標示と牛乳の字、そこに校章がデザインされているのみで、ブランド名がはっきりしない。掲載瓶も
「北海道大学」
という法人名だけが書かれていて、一般に呼称されている
「北大牛乳」 の裏付けは取れなかった。
関連情報として最も興味深いのは、昭和44年に上梓された北海道大学農学部附属農場報告-農場の概要で、以下に一部を引用すると、
農場の名称
昭和42年度現在における農場は8カ所にあり,その各々の所在地は第一農場は札幌市北11
条西7丁目に、第二農場は札幌市北18条西7丁目に (中略)
第二農場は酪農経営の研究及び牛に関する試験研究と学生の実験実習を行うことを目的とする。
畜産製造部
畜産製造部は乳製品製造実習工場および肉製品製造実習工場を有し、それぞれ乳製品または肉製品についての加工製造実験、学生実習等を行なっているが、昭和42年度の事業概要は次のようである。
乳製品関係
年聞を通じて連日行なわれている業務はいわゆる市乳、すなわち殺菌ビン詰乳の製造であ
る。これは日曜祭日を除く毎日1,000〜1,500本のビン詰乳を製造するものである。次にバター
チーズ、醸酵乳、アイスクリーム等の製造がある。これらは学生実習を兼ねて随時製造が行な
われる。
一日あたり一合瓶1,000本以上の製造で、バターやチーズ、アイスクリームまで造っていたとなれば、これはもうちょっとした地場乳業の域だ。
上記で言われる “殺菌ビン詰乳” が 「北大牛乳」
として学内販売されていたもので、時期仔細は不明ながら、「あまりの美味しさ、あまりの人気に応え切れなくなり、全学販売を中止したはず」
との回想を見つけることができた。(⇒北大の小話/5号館のつぶやき)
いつの時代まで 「北大牛乳」
が売られていたのかは良く判らないが、昭和49年の北海道大学農学部附属農場報告-びん装乳の大腸菌群による汚染というレポートでは、
北大附属農場乳製品工場において製造されているびん装乳は、85℃までプレートで加熱した後、15分間保持する方法で殺菌されている。
との記載があり、だいたいこの頃までは確実に存続していたようだ。
ところで上記レポート、乳製品工場にとってはかなり不名誉な調査報告で、びん装乳からの大腸菌群検出が甚だしく、一旦製造と(大学生協への)払い下げを中止し、原因究明と解決に当たった、というシビアなもの。
昭和46年当時の話だが、隣接する牧草地に液肥として散布する乳牛のし尿によって汚染された空気が工場内に流れ込み、牛乳充填機のエアーパイプノズルから吸入されていた…という顛末だったらしい。衛生管理の難しさを物語るエピソードだ。
更にネット上を検索すると、ごく近年に開かれた北大畜産部の新歓/追い出しコンパを報告するような内容のページがいくつかヒットする。「恒例の北大牛乳で乾杯」
という文言と写真が掲載されているが、牛乳と思しき白い液体は全てペットボトルに詰められ、テーブルの上には使い捨てコップが供されており、残念ながらとにかくも、瓶詰めは廃止されて久しい様子である。
― 関連情報 ―
北大附属農場畜産製造部のキャップ
(牛乳キャップ収集家の活動ブログ)